ここで紹介します。『口伝 またたび航海記』は世界に残る歴史書の中でも、誰も残そうとしなかった最後の1冊をネズミがかじりながら暗記し、仲良しの猫に教えた内容がのちのち口伝されたものです。ゆえに事実現実とは到底思えない歴史書です。そのため、皆はこれを「歴珍書」と呼んでいます。 |
どのくらい昔かは定かでないが、まだ猫たちが水を愛し、一部の猫は海にも挑んだ時代の話。中でも勇敢だった猫がポストカードバイキングだった。ポストカードバイキングの一団がある日、目がまっ黒になる程の嵐にあった。残念なことにすべての船は難破し、ジャポネという国に流れついた。22匹の猫が浜に打ち上げられた。しかし、助かるのはレダという猫だけとなる。 この日タマタマ、砂浜に散歩に来ていた文(ふみ)というジャポネーコ(この国の猫はこう呼ばれている)が気絶しているレダを見つけた。「アラ、この方は死んでしまっているのかしら?」文(ふみ)は耳を立てて流れ着いた猫の顔に近づけてみた。 「生きているわ。ブーブー言っている」助けなくてはと文(ふみ)はやさしく舌で額や背中をなめてあげたのであった。 「ああ、懐かしい感触」レダは文(ふみ)の上手な舌ブラシで気を取り戻した。「ありがとう。君の名は?」「私はこの村の木こりの娘で文(ふみ)といいます」二猫(ふたり)はやがて恋に落ちる運命に…。 その後、レダは木こりの家で世話になるが、それは物凄い働き猫であった。木こり総出(村の木こりは全部で22猫)で一森切るのに2日かかるところ、レダはたった一猫で切ってしまう。村猫たちは皆言った「文(ふみ)の家は本当にいい婿を海で拾ったのう」しかし、幸せな日々がそうそう長く続く訳がない。 働き者のレダが今日は文(ふみ)の誕生日ということで、休みをもらい二猫(ふたり)は山へハイキングに出かけた。それはいい天気で、小鳥たちも今日は飛び掛かってこないだろうと二猫をヒューヒューなどとからかった。池のほとりでレジャーシートを広げ二猫(ふたり)はたっぷりオカカの入ったおにぎりを食べた。「もうお腹いっぱい。眠くなっちゃった。」文(ふみ)は言った。なんだか辺りはいいムード。と、その時どこからかなんとも言えないいい香りが。レダは鼻をヒクヒク、文(ふみ)は肩すかしでプンプン。そんな文(ふみ)までも、その香りに誘われるかのようにフラフラ、森の奥へと進んでいった。そこで見つけた1本の木。今でいう「マタタビの木」であった。二猫(ふたり)はその不思議な香りの枝を1本ずつ折ると山を下りた。 あれ程の働き猫だったレダだったが、それからというもの来る日も来る日浜辺でゴロゴロと不思議な枝を舐める毎日であった。文(ふみ)も同じで布団の上で毎日ゴロゴロしておった。村猫も「二猫(ふたり)は山で魂抜かれおった」と噂した。一番悲しんだのは文(ふみ)の父である。そこで考えた。「レダが言っていた船というやつを作って見せれば、立ち直れるかもしれない」 翌日から村の木こり22猫が総力を結集して222本の大木を山から切り出した。書き残してあった船の図に合わせ、来る日も来る日も木こりたちは木を削り組み立てた。22日目、船はやっと完成した。文(ふみ)の父はレダと文(ふみ)から忌まわしい香木を取り上げて二猫(ふたり)を浜へと連れ出した。 そこにはかつて遭難してしまったポストカードバイキングの船にも負けない豪華船の姿があった。レダはその勇姿を見ると昼だというのに目をまん丸にし、尾までも膨らんだ。ポストカードバイキングの血が蘇ったのだ。レダは言った。「お父様、私はやはりこの大海原に出なければなりません。」まだフラフラしていた文(ふみ)だったがそれを聞いて、やはり昼だというのに目をまん丸にした。まんまるの目からは涙がこぼれた。そして文(ふみ)はレダに言った。 「マタタビに出てしまうのね」、レダは言葉なく船に乗った。船首には、文(ふみ)が付けた爪のひっかき傷だけが残った。 ポストカードバイキングはやはり海の猫であった。おわり |
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